2.製造元さんでお勉強してきました
2007年5月某日。忙しい合間をぬって、『京都蒲鉾商組合』の現組合長であります株式会社はま一の社長、人羅氏、前組合長であります株式会社茨木屋の社長、池内氏のお二人にお話を伺ってまいりました。
いろいろとおもしろいお話伺えましたので、以下要所抜粋でお届けいたしますv
ではさっそくですが、一つ目
「『京』かまぼこの特徴について教えていただきたいのですが・・・」
池内氏:
「何をもって『京』かまぼこというのか、というのは非常に難しい質問なんですが、特徴としては見た目に非常に洗練されていると思います。」
(と細工蒲鉾の写真を見せてくださいました。非常にかわいらしい、そして美しい蒲鉾にびっくり。その上、鯛のかまぼこは形だけを型でとり、後のうろこなどの細工は全て包丁一本でされるというのに、二度びっくりです。これはもう一点ものの工芸品と言うべき!)
「元々かまぼこというのは宮廷料理の一つとして発祥したことは間違いないと思われます。「類聚雑要抄(るいじぞうようしょ)」という文献に平安時代、1115年に藤原家が饗膳に使用したという記載があります。
当時のかまぼこはちくわの形をしていたんですよ。書籍に残っているものでは、これが最古とされています。生間(いかま)流<※1>の家元の蔵書で、他にも種々のかまぼこが絵入りで記載されているものが沢山あります。それがしんじょうや、魚そうめんとして、洗練された形や味として継承されているのが「京」かまぼこですね。高級品としてのハレの料理に使われていたんです。
そして京の都は海から遠い為、昔は新鮮な魚の入手が非常に困難でした。そこで生命力の強い鱧(はも)の特殊性を生かしたかまぼこが生まれたのではないかと考えられます。明治の中頃までは京都のかまぼこと言えば、鱧のすり身で作られたものだったんですよ。魚ぞうめんのことは「鱧ぞうめん」と呼ばれていて、昔は鱧でないとそうめんにすることは不可能やったんです。」
確かに、京の夏と言えば、鱧(はも)料理。今でも鱧をよばれんと夏が来たと思えないとおっしゃる京都人は多いようでwそれに海から遠いというのはやはり塩干ものが京で重宝された理由なんですねぇ。棒だらなんかと一緒だ。
つぎに
「『京』かまぼことして地域団体商標登録<※2>はまだされていないようなんですが、今後のご予定は?」(取材の前に多少はお勉強しときました(笑)『京人形』『京せんす』、それに京野菜の中で万願寺とうがらしや聖護院かぶらなどなどは特許をとられてます)
人羅氏:
「『かまぼこ』と言うと板に乗っている形状のものを思い出されると思うんですが、天ぷらは揚げかまぼこです(そうそう!京都の方、平天など揚げた煉製品を総称して天ぷらって言わはるんです!)し、ちくわは焼きかまぼこ。魚そうめんももちろんあります。共通の特徴といいますと、「すり鉢を使って時間をかけ(原料のすり身を)ゆっくり煉る」ということですね。
うちなんかはこの工程に2時間ほどかけております。
今後、来年をめどに地域団体商標登録をしようかとは考えているんですが、これが一つ目の「京かまぼこ」と名乗れる条件になりますね。あとは(組合員の)みなさん50年以上営業されていますので、そのあたりも条件になるかと思います。
それと今ちょうどやろうとしているのが「きょうと信頼食品登録制度」への登録なんですけれど、品質管理基準、情報開示の基準、例えば、加熱ですとその温度なんかをきちんと記録していないとこれには登録できないんですが、それをさせてもらうことになってます。
登録すると京都府のほうからインターネット上で公表してもらえたり、店頭に表示できたりするんですが、やはりお客様からの信頼が一番ですので、こういうことを率先してやっていきたいですね。』
では見た目にも美しい「京」かまぼこですが、流行ってやっぱりあるんでしょうか?
人羅氏:
「『京』かまぼことしては流行はあまりないですね。昔ながらの伝統的なものをみなさん大切にしておられます。その枠内でちょっと目新しいものを開発したりというのは各々されています。
最近では「かに(風味)」が流行といえば流行でしたが、(京都では)流行を追うのではなくて、伝統的なものを大事にし、それプラスアルファで商品を開発しているということでしょうか。
あとは流行というわけではないですが、季節商品は多いですね。魚そうめんもそうですし、おひなさんのかまぼこを作ったりもします。昔は高級品だったんで正月や祭事に使われてたんですけれど、今はそれが無くなりましたねぇ。
祭りと言えば鯖寿司とかまぼこというのが習慣やったんですけど、すり身ができて安価で作れるようになってきたら、値段競争して商品が悪くなり、需要が減るという悪循環になってしまいましたね。やはりええもん作らないとだめですね。
その点、京都は大量生産しているところはないですし、昔ながらの作り方で、伝統食品として丁寧に作っておられます。」
棒だらといものたいたんも祭りたびに炊かれてたという話もありましたし、京都は祭りと言えば塩干モノやったんですねぇ。
それでは茨木屋さんにもお伺いしたんですけれど、
それでは「かまぼこ全体の消費量や、人気の移り変わりについて教えてください」
池内氏:
「やはりかまぼこも近年の食生活の変化で消費量は年々減ってきています。売り上げのピークは昭和50年。データとして残っている資料を見ると、一人当たりの消費量は昭和32年で約70グラム、昭和50年で90グラムとなっています。
肉や卵、乳などの他の食料品の消費量が(昭和30年代から現在までで)2.5倍まで増加した為、魚やその加工品の消費量は減ってきていると考えられます。京都の業者も年々減少しており、昭和39年には70名だった組合員数も現在では15名まで減少しています。」
「京都ではよく食べられる『魚そうめん』ですが、他地域ではあまり売れないと聞いたんですが、その理由は?」
池内氏:
「魚そうめんもしんじょうも室町時代からあるんですけどね。やはり食生活というのは保守的なんでしょうね(笑)
大阪ではほとんど魚そうめんは売れないといいますねぇ。ただし、最近は京懐石もランチなどで手軽に食べられるようになってきたことによって、鴨川の床料理と切っても切れない魚そうめんもどんどん認知されています。
昔、魚そうめんのことを「糸衣(いとぎぬ)」と呼んでいた時代もあったんですよ。他所の方にもぜひよばれてほしいですね」
「魚そうめんはどのように作られているんでしょう?」人羅氏:
「もうまったくところてん方式ですね。細く押し出したすり身を熱湯でゆがいて作ります。一番最初はおなかを使って押し出していたみたいです。次がてこの原理を用いてですね。」
(と手を上にあげて動作をしてくださったんですが、うまく文章で表現できません(><)
「最後は、モーターを使うようになりました。長いことゆがくと水分を吸ってしまってええもんができないので、短時間でゆがくほうがええんですよ。なんで、(魚そうめんの)最初と最後が鍋に入る時間差が短いほうがいい。すぱっと押し出すほうがええんです。それをぐらぐら沸いている鍋で30秒ほどゆがくんです。細いものなんでそれであがりますね。」
「『しんじょう』という商品の名前の由来なんですが・・・」
池内氏:
「しんじょ、またはしんじょうとどちらでも表記があるのですが、広辞苑によると『肉のすり身にすった山の芋、粉類を加えて調味し、蒸し、またはゆでたもの、粉薯(粉のいもと書きますね)<※3>、真薯』とあります。
京都でも昔は山芋が使われていたんですが、今のしんじょうには使いません。山芋を使うのは現在の関東のはんぺんですね。さきほども言うたようにかまぼこも「蒲鉾」というように蒲の穂ににた形をしており、いわゆるちくわのような形をしていたんです。はんぺんはそれを半分に切った状態「半片(はんぺん)」かもしれませんねぇ」
他所のこときいて申し訳ないんですが、
「舞鶴かまぼこ」というのは地域ブランドとして登録されていますが、違いというのはあるんでしょうか?
人羅氏:
「作り方とかに違いはないと思いますが、舞鶴では地域ブランドを組合で作られて、インターネットなどを通じて売っておられるんです。地場の魚を使ってというのもあちらの特徴ですね。登録も一番早かったと思います。小田原(かまぼこ)さんと変わらなかったですね、確か。うちは遅れをとりましたんで「きょうと信頼食品」の登録は早くしてしまおうと(笑)」
最後に一言お願いします。
人羅氏:
「伝統食品というのは体にもええもんばっかりなんですよ。一時期、かまぼこは体に悪いという風潮があったんです。塩分が多いとか。でもコレは間違いで食パンなんかよりも塩分は少ないんですよ。
全かま<※4>のほうで色々やられてるんですけれど、ガンにもよいですし、通風にもタンパク質が多くて他の栄養分が少ないので一番よいと言われてます。コレステロールにも魚の油がいいんですよ。
保存料なんか入れなくても、丁寧に、鮮度管理などをきちんとして作ったらそんなに簡単に腐らないんですよ。菌を付けない努力というのは一番しています。でも一度ついた(悪い)イメージはやはりなかなか取れないのが残念です。」
=おすすめの食べ方:人羅氏より=
京都では付属のだしをかけてそのままよばれるのが一般的なんです。千切りにしたきゅうりを上にのせたりしてね。昔はそのようなものが付いていなくて、二杯酢や三杯酢をかけてよばれてたんでそれもお勧めします。食欲の落ちる夏にはさっぱりとしてますし、貴重なタンパク源ですよ。あとはしょうがをかけたり、温泉卵をかけたりしてもいいです。しんじょうはさいの目に切って、同じくさいの目に切ったアボカドと混ぜ、わさび醤油で和えてよばれるのが意外とおいしいですよ。
※1 生間(いかま)流
生間(いかま)流式庖丁。
烏帽子、袴、狩衣姿で、まな板の上の魚や鳥に直接手を触れずに包丁を使って料理し、めでたい形に盛りつける技で、その流儀のひとつが生間(いかま)流式包丁 。式庖丁とは、平安初期に宮廷の儀式として行われるようになった有職料理(朝廷の節会などで食された)の技法・作法のこと。宮廷の料理方であった生間家の祖先は、鎌倉期に源頼朝から姓を賜って幕府の庖丁方を務め、以後、代々の幕府や織田、豊臣家に仕え、さらに秀吉の命令で桂宮家に仕えた。その後、、京極宮家、有栖川宮家にも仕えたが、明治に入って桂宮家が絶家となり、生間家は扶持を離れることとなる。
萬亀樓HPより http://www.mankamerou.com/
※2 地域団体商標登録
「地域名+商品(役務)名」からなる商標であって、以下の要件に該当するものを地域団体商標とする。
1.団体の適格性(組合であって構成員資格者の加入の自由があること。例:事業協同組合、農業協同組合)
2.地域名と商品(役務)とが密接な関連性を有すること(商品の産地、役務の提供地、主要原材料の産地等)
3.出願人が当該商標を使用したことにより出願人の商標として一定程度(例えば隣接都道府県に及ぶ程度)の周知性を獲得していること
4.商標全体として商品(役務)の普通名称でないこと 等
特許庁HPより http://www.jpo.go.jp/indexj.htm
※3 粉薯
粉と漢字をあてていますが、実際は米偏に参という漢字。「さん、こながき」と読む。常用漢字でない為、表記できませんでした。
※4 全かま
全国かまぼこ連合会の略。
水産ねり製品(かまぼこ、ちくわなど)の製造業者による業界唯一の全国組織として、1940年(昭和15年)12月9日に設立され、水産業協同組合法に基づく「全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会(略称:全蒲連)」と、任意団体の「全国水産煉製品協会」とを併せた名称